ダイニーマスリングによるセルフビレーについて1

11月10日【墜落時の衝撃荷重計算】

お勉強中です。
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第4章にダイナミックロープ(ここではφ7プルージックコード)を使った自作カウテイルによる墜落時の衝撃荷重軽減への期待が書かれていました。
え!?、高々5,60cmの長さで衝撃吸収もなにもなかろうと思ってちょっと調べてみました。


理論式
単純化のためにロープの結び目や支点での摩擦を無視すると、墜落時にロープにかかる最大荷重(衝撃荷重最大値)Fは
F=mg(1+(1+2K/(mg)(h/L)))^0.5  (N)  式1

ここで、m:墜落者の質量(kg)、g:重力加速度(m/s^2)、K:弾性力*1(N)、h:墜落時の自由落下距離(m)、L:ロープ長さ(m)、またh/Lは落下(あるいは墜落)係数と呼ばれます。
(式1の算出方法を詳しく解説してくれているWEBページもありますが結論に影響を与えない細かな間違えが幾つかあるので、後日正しい計算法をアップする予定です。)

*1 断面積を考慮しないヤング率のようなロープの固有値とお考えください。弾性係数と呼びたいところですが、単位がNになるので弾性力と呼ぶ事にします。これは重要なファクターなので後日もう一度触れる予定です。
 
式1において2K/(mg)(h/L)>>1なので式1は次のように近似できます。
F≒mg(2K/(mg)(h/L))^0.5
つまりmと落下係数がそれぞれ一定なら墜落時の最大荷重はロープの弾性力の平方根に略比例するという事です。つまりロープが長くても短くても同じ長さでさえあればナイロンロープの最大荷重はダイナミックロープのそれの略々√(Knylon/Kdynamic)倍と考えて良さそうである事が分かりました。また、スリングは輪っかですから2本の並列ナイロンロープとして作用するので、同じ材質のシングルコードに対して最大荷重は更に√2倍です。(バネの並列問題) 
 
つまりナイロンスリングの最大荷重は同じ長さのシングルダイナミックロープの
√2×√(Knylon/Kdynamic)倍だということが分かります。

おー、そーだったのかぁ。 短くても材質効くじゃん。

では材質に依るKの値の違いはどのくらいあるのでしょうか。メーカーからの発表値がないのでUIAAの落下テスト結果などから逆算してみました。それは第2報で書きますがずいぶん違いますよ。

ところで、本題から外れますが、式1から「使うロープと墜落する人が決まればロープの最大荷重は墜落距離ではなく落下係数に支配される」という事も分かります。
 
つまりビレイ支点から中間支点を取らずに10mのランナウトで墜落したときの最大荷重(N)と50cm登った所で墜落した時のそれは等しいという事。(衝撃エネルギーJ)は落下中に刻々と変化する荷重の時間積分なので前者の方がもちろん大。ガツーーンとガツンの違い。そのため人体への影響は前者の方が大きくなると言われていますが、私は医者じゃないしデータも探した事がないので本当のところは知りません。)

本題に戻ります。Kが大きく違うと思われる2種類のランヤード(セルフビレイコードの事)の落下係数を揃えて行った最大荷重測定実験結果を見つけました。

実験概要)(要約:常吉)
78kgの重りを70cmのナイロン製ランヤードにつないで80cm落下させたた場合と、同じ錘を同じ長さのクライミングロープ製ランヤードにつないで同じだけ落下させたた場合の荷重を比較した(落下係数=1.14)。その結果、前者の最大荷重が約8kNだったのに対して後者は5kNであることがわかった
。 
http://blog.livedoor.jp/rope_access_eng/archives/1194438.html

ついでに58cmのランヤードで23cm落下した時の人体実験結果までありました。
http://blog.livedoor.jp/rope_access_eng/archives/1162351.html

腰椎に悪影響のない衝撃荷重は6kN以下と言われているそうです。 (正しくは衝撃荷重ではなく衝撃のエネルギー、つまり荷重の時間積分で決まるらしいのですが、まぁいいか…。)
しばしばクライミングに使われる60cmのナイロンスリングで腰の下8.4cmの支点にセルフビレーを取った状態から落下すると落下距離は68.4cm、落下係数は上と同じ1.14となります。そしてその落下に依って6kNを33%も越えた8kNが腰と支点に加わるという事が上記実験から分かります。イヤ、シングルランヤードで行った上記実験と違ってソウスリングは輪っかなので前述したように最大荷重は上記実験値の√2=1.4倍と考えられます。

さらに上記ブログを読んでいたらランヤード カウズテールでの短距離墜落と衝撃荷重という記事の中にフランスの国立スキー山岳学校研究所の実験結果が載っていました。 興味のある方はぜひどうぞ。

右は私がこれまでランヤードとして使ってきたメトリウスのイージーデイジーですが、これなら腰に障害が出ることはありません。なぜなら破断荷重1.3kNですから腰に大きな荷重がかかる前にほんのちょっとした墜落で破断してしまうからです。ワタシ、これまでよく生きてきました。
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左は慌てて買ってきたPAS。これならどの輪っかを使っても強度は22kNなのでこれ自体が破断して落ちる事はまずないでしょう。でも伸びがないし輪っかなので腰または支点への衝撃は上記のナイロンシングルランヤードの実験結果以上となります。やっぱシングルダイナミックロープでカウテールを自作しなきゃだめですね。

それにしても腰から下60cmの支点に60cmのスリングを掛けた状態で落ちたら落下係数2。たった1.2mの落下で車いす生活かも…。そういう状況では絶対落ちちゃいかんと言う事ですね。

ついでに言えば、インドアジムでヌンチャクにぶら下がってハングドッグ。それを忘れて登り始めてヌンチャクがいっぱいになったところで落下したらこれも落下係数2ですよ、2。 どのくらいの衝撃か試しにやってみて下さい、…とは絶対言えません。決してやっちゃいけません。


個人的覚書
支点・人体への衝撃荷重の最大値は落下距離に依らず落下係数と弾性力(と本人の体重)で決まる。したがって短いランヤードでの短距離落下を甘く見てはいけない。(20m登って40m落下した時と、30cm登って60cm落下した場合の最大荷重は等しい。もちろん人体や支点が荷重にさらされる時間は前者が圧倒的に長く、グランドフォールを考えなくても衝撃のエネルギーは前者の方が圧倒的に大きいことを忘れてはならない。)

であるから
・セルフビレーは落ちないための行動範囲規制紐と考え、落ちようがない長さにセットする。
・セルフビレーはいろいろな意味からもメインロープでとる。
・上方にある支点からセルフビレーをとれば落下係数も落下距離も軽減できる。腰より低い支点にセルフを取る場合は腰の位置をできるだけ低く保持する事によって落下係数を下げられる。
・ロープの結束は(ロープの強度を落とすが)弾性力を下げてくれる事になる。私が教わったハーネスへのロープ2重巻きの意味はそこにあるようだ。

次回は固定分散信仰はやっぱり「都市伝説」かもしれないということについて。
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コメント

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セルフビレー

興味を持って読ませていただきました。

>・セルフビレーは落ちないための行動範囲規制紐と考え、落ちようがない長さにセットする。
>・セルフビレーはいろいろな意味からもメインロープでとる。

よって、片手ですばやくメインロープでインクノットでセルフを取る事が重要ですね。

昔から自分はデイジーは使わないし、ビギナーにも
ツルベの場合は特に、”とりあえずのビレーセット”
を勧めないのは正解でした。

明日は楽しみにしています。

杉さん、

コメントありがとうございます。やっぱエンジニアの性分、データなしで鵜呑みはできなくて調べてみました。足元にある懸垂下降支点にセルフビレーをとるシチュエーションを良く経験しますが、要注意ですね。

明日はよろしくお願いします。